匂いの話

今日は匂いの話です。

冬っていい匂いがしますね。なんかこう、鼻ん中が痛くなるほど冴えた清潔な匂いが、まるでミントみたいだ。でももちろん、国によって匂いが違ったりする。古典的な例えをすると、ドイツは「林檎とシナモン、グリューワイン、松の葉」などではないでしょうか。

私がヨーロッパの冬については薪の匂いの印象がする。皆が暖房がついてる部屋に暮らしてるのに、こんな寒い中でどこかがBBQでもしてるでしょうかとぼんやり考える。初めて渡欧の時に空気に漂うこの匂いせいで、どうしてもヨーロッパに連想してしまう。

しかし、私は実家の冬の匂いも大好きだ。子供の頃からの嫌々と通学する日々を思い出すね(笑)5-10度ぐらいしか嗅げないあのちょっと甘いピリッとした空気は実にメンタルに良いし、通学路が15分しかないのはもったいないと思ったぐらいだ。こっちの冬が寒すぎるからこの匂いを嗅げるチャンスが滅多になくて、今日はちょっと暖かかったから空気にほのかな実家の匂いがする。それに相まって目にする風景がまるで異国のようだーー異国だけど!この街に随分慣れてるからついその事実を忘れてしまうけど、空気と風景のギャップで自分が異国に居る事実を思い出して、建物やお店が全部新鮮に見えてきた。匂いが記憶に繋がると言われるから、今回はこの機能がよい方向に働いてくれたかな。ありがたい。

 

実は今まで曇りが数週も続いてきた(ドイツにしては全然普通だけど)。太陽が一瞬でも出てくるとツイートをするぐらい大興奮して、昨日久しぶりに町中にお散歩して、フラフラと花屋に寄ってきた。もうすぐ引っ越すから、11月からは盆栽などを買わないように心かけてるけど、切り花でもいいかな~ しかし無駄に高いしな~と考えながら急にキツイと言ってもいいほどな香りが鼻にツンときた。この長い暗い冬に花の香なんて!まるで春みたいだな!と懐かしそうにクンクンしてきたら、思い出した。風信子とチューリップ。春ではなく、真冬に咲く球根植物だ。

知識はあるけど、匂いを分かったのは去年からだった。良い匂いだな~と思って盆栽や切り花を寮のあの小さな部屋に飾って毎日眺めてた。初めてのドイツの冬。毎日暗くて昼も夜も分からない日々に呼吸してる塊になったみたいで、正直に言うと1月~2月記憶はほとんど飛んでた。試験の準備をしてたことぐらいしか思い出せない。だから、ここで急に思い出して少しショックを受けたぐらいだ。具体的なことではないけど、雨風や雪中で生きるだけで精一杯の辛い寒い日々に、あの小さな汚部屋に少し生気を添えてくれた風信子とチューリップ。冷え切った湿っぽい空気。頭痛。ベッドから眺める窓の外の風景。料理を作って一人でキッチンでご馳走。希望を持てるように頑張る。生産性を上がらなきゃいけないのを思って頑張って体を動かそうとする日々。

数秒間キャパオーバーになって花屋で立ち止まった。あれから春がようやく来て暖かくなってきて、花が咲いて、旅行してまた試験の準備して、また旅行に行って、胃腸が壊れて病院に通って、引っ越して新学期になって、また旅行して、歳を取って、また引っ越す。あれからもう一年も経ったのかぁー。懐かしくて泣きそうだ。私はもうあの小さな部屋を後にした。部屋探しを機に、ドイツ語が少し上達した気がする。未だに迷うけど、したいことが少しハッキリしてて色々挑戦できるようになる。人に話すとと「要は慣れだ」って鼻に笑われそうけどどうでもいいんだ。不器用だし成功者ではないけど、私しかできないことがある。この体と共に何処まで行けるか試してみるじゃないか。

 

風信子とチューリップの印象はそこでオーバーライトされて、しばらく変えようにない。嗅ぐたびに一々泣いたらどうするんだ。まぁ、でも全部悪いことでもないんだ。引っ越したらまた盆栽を買おうかな。